11.まるめろ

温湯「白泰商店」
温湯「白泰商店」

 秋日和のやわらかい日ざしの頃になると、果物屋さんの店頭からマルメロの甘い香りがしてくる。
 セイヨウナシに似た形と奥深い黄金色は、子供の頃食べたシロップ煮缶詰の味とオーバーラップして懐かしい。
 高木恭造の「まるめろ」は、若い妻と死別する切ない思い出を詠んだものだが、外国の「まるめろ感」は明るく悩ましい。
 『千夜一夜物語』では「ひとの愛でる美味すべてが凝縮されているのは、マルメロだけ」だそうで、ヨーロッパ文学に至っては、マルメロの綿毛は「青春の産毛」に例えられ『果物と野菜の文化誌』(大修館書店)に詳しい。
 効用も、昔は咳止めや下痢止めが一般的だった日本にくらべ、古きローマでは娼婦たちの髪染めの代用に脱色剤として使われ、おしゃれの小道具だった。

 40年程前、温湯温泉へ父と遊びに行った折、初めて食べたマルメロの缶詰の味は忘れがたい。果実は、ほのかな甘さとアルコールに漬けたような大人の味であった。
 数年前、また温湯の「白秦商店」を訪ね当時の缶詰の話をしたら、女将さんが30分ほど店の隅々まで捜し回り18年前の缶詰を見つけてきてくれた。 こんな古いもの売れないと言うのを、無理に譲ってもらい興奮の家路につく。錆びた缶を勇んで開けると、なんとシロップは堅いゼリー状に、果実も色、堅さともレンガそっくりに変ぼうしていたが、昔の味を思い出すには十分であった。
 碇ヶ関村の国道沿いに続くマルメロ樹林帯は、今も見事な景観と甘い香りを旅人に提供している。


12.消防屯所

五戸町「第一分団屯所」
五戸町「第一分団屯所」

 名川町へサクランボ狩りの途中、あまりの暑さに冷たい物でもと目についたのが、食堂の「ひえめし」の看板。 冷え冷えとした響きに感動し早速注文したのはいいが、出されたのは熱々の「稗(ひえ)飯定食」だった。一同、顔を見合わせながら渋々食べた「ひえめし」だったが、イワシの焼き魚や山菜料理との付け合わせが、暑さを忘れるほどの旨さ。
 名川町でのもう一つの目的は、虎渡地区にある「虎渡の屯所」のスケッチだった。 昭和27年に建てられた消防屯所は、白い下見板張りの壁に鮮やかな赤い屋根。2階からはバルコニーが突き出、半鐘を備えた塔屋は曲線が美しい。
 これと同様のモダンな屯所は五戸町にもあり、町のシンボル的存在で頼もしい。訪れた時はちょうど夏祭りの最中で、世話役さんらが屯所を中心に準備に余念がない。

 近郊からは、正装し鼻に白粉をつけた若い男女が次々と屯所前に集まり、祭りの華やかさを演出する。 都市型の観光化された祭りが問題になる昨今、なんとも羨ましい限りだが、40年程前の我が町内にも消防屯所があり、夏のねぷた祭りの小屋掛け、三社大祭の山車作りも屯所が中心だった。
 屯所はまた「大人の社交場」として憧れの所だった。 祭りの準備や出動の後の宴会に潜り込み、「大人の話」に耳を傾け手製の山ぶどう酒の相伴にあずかる。 団員が酔っぱらい運転で出動し荒物屋に突っ込み、新聞の一面に大きく写真が載ったのも今は昔の物語。
「北の望楼」写真集(和田 光弘)は、十和田消防

署の四季を紹介。又、東大阪市在住・外園氏の「火

の見櫓っておもしろい」は、全国の望楼の原風景が

美しい。